2009年12月18日 (金)

【オカルト作家の物理】

テレビ朝日、年末恒例の超常現象特番の収録が12月17日にあった。
これは、23日に放送予定である。

この収録途中、オカルト作家の山口敏太郎さんが急に妙なことを言い出した。
『警察のスピード違反測定装置=オービスは、誤差があり正しい測定には限度があると大槻は法廷証言しているではないか。だからいつも科学には誤差があり、科学的に正しいという科学者の態度は矛盾だ。』
というわけだ。

並み居るオカルトアホの面々に比べて、山口氏だけは多少知的で科学の素養もあり、科学的な事柄も理解できる人と思っていたが、上の発言によって彼もまたどうしようもないオカルトであることがはっきりした。

私のオービスに関する批判は、当たり前のことだ。この装置も本来の測定誤差を有している。
年に何十万件も取り締まりの測定をやれば、測定誤差の範囲で数名の誤検挙が発生する、というものである。
つまり、警察・検察・裁判所は、この誤差の評価をせず速度違反検挙・送検・有罪判決をしているわけだ。

それなら、科学の測定はどうか。
もちろんこの測定の誤差を考慮して、その範囲で言える正しい結果を出すのだ。これを『測定における誤差論』という。
誤差を十分考えても確実と判断できる結果だけで科学は成り立っているのだ。

交通警察は誤差を無視して誤りを犯し、科学者は誤差を考慮して誤りを犯さない。
山口氏は浅はかにも、交通警察の誤りを科学者も犯していると思い込んでいるのだ。

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2009年12月 9日 (水)

【フォース・カインド】

ワーナー配給の上記映画が封切りというので、試写会に招待された。UFO宇宙人との接近遭遇の話であった。なかなか面白い映画と感心した。

アラスカの田舎町ノームは、全米で失踪者や行方不明者が多発していることで有名である。この事実をUFO宇宙人による誘拐というフィクションで説明しようとしているらしい。

もともと映画はフィクションであるが、これをノンフィクションに見せようとして『心理学者』の研究調査の形となっている。この博士が市民に催眠術をかけ、UFO宇宙人によって誘拐・拉致を証言させている。もちろん、この証言は生々しく、興味津々であった。

しかし、この心理学者の調査・研究は納得のいくものではない。

  1. いったい、なぜ催眠術なのか?市民は自分の経験を催眠術下でなければ思い出せないのか、証言できないのか?もしそうなら、彼らは市民生活もできないだろう。
  2. なぜ、調査研究が心理学者(文学博士)のみによって行われたのか?この調査になぜ理学博士・工学博士・医学博士が参加しなかったのか?文学博士を『博士、博士、先生』と呼んで、さも信頼される科学研究者と思わせている。
  3. この映画の最後に数多い『UFO目撃証言』が流されている。その大部分が実は『何か光る物体』というものだった。その光る物体に宇宙人が乗っていたとか、その宇宙人に話しかけられたというものではなかった。

ともかくこの映画は、これまでのUFO映画に比べて実に面白かったが、あくまでもフィクションとしての話である。あるいは、催眠術下の夢物語としての話である。
他人の夢物語を聞くのは、結構楽しいものだ。

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2009年12月 1日 (火)

【生きることに意味がない】

このブログの読者の方より、下記のメールをいただきました。


▼読者の方からのメール
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大槻先生でも答えは出ませんか?


はじめまして。いつもブログを興味深く拝見しております。
突然ですが、大槻先生は何の為に物理学を極め、何の為に生きていますか?
最近たまに考えさせられるのですが、人間が生きる意味とは何でしょう?
物理学で様々な事象を解明して、本質を理解するのは素晴らしい事だと思うのですが・・・そして興味もありブログを拝見してる訳なんですが・・・

太陽や地球でさえ時期が来たら滅亡する運命にあると思うし、当然人類だって永遠には長続きしない気がしてしまいます。実際地球や太陽がなければ人間は生きられないし、少しでも地球の状況が変われば人類は滅亡しますよね。
細かく考えると人間は長くて百年しか生きられない命で、一般人なら孫の代までしか名前は残りません。有名人や偉人と言われる人も、様々な学説や成果も、全ては人類が存続しているから意味があります。しかし滅亡したら無になってしまいますよね・・・遠い未来を考えてどうすると思うかもしれませんが、この事は人間が考える力を持った以上、一番重要な事だと思うんです。

そこで質問です。人類滅亡は防げますか?これ程まで宇宙や地球の様々な仕組みが解明されて、人類が置かれている状況を理解できるようになっても、人類滅亡に関してはただ受け入れるしかないんですか?人類が滅びゆく運命だとしたら、どんなに素晴らしい論文でも無意味でちっぽけに思えるんです。
もしある時点で途絶えるならば、生活が便利になったこの辺で生き方を変えても良いと思います。過去の功績の上にあぐらをかいて感謝しながら、来たる終末に向けてもっと犠牲の少ない社会に。競争の犠牲で貧困に喘ぐ地域のない、全人類に文明をフル活用した社会にです。

くだらない質問で申し訳ありませんが、具体的な例も交えて未来が明るいと諭して頂けませんか?そうすれば今の社会も納得できます。人類滅亡は物理学や高度な文明で防げる可能性があるんだと、前向きな考えを教えて頂けませんか?
今の状態ではどうしても、全てが無意味に思えてしまうのです。
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▼大槻からの回答
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『やがて宇宙も滅び、太陽系も消滅するのだから人類は生存する意味がない、科学文明を発展させてもやがて完全に無に帰してしまっては』というご意見は間違っています。
『大槻にも答えは出ませんか?』と問われていますが、答えはちゃんとあります。それはきわめて明快です。

人類が生きながらえてゆくかぎりそれが有意義で幸福な生活であるように勤めること、この一点です。
相対性理論、量子論はとてつもない自然の神秘性と秩序を教えました。この知的財産によって人類は原子力発電に成功し、コンピューターを使用するようになりました。これによって文明は大きく飛躍しました。

ここには絶望も退廃もありません。人類は競ってこの文明を享受しています。やがて何十億年、何百億年先に宇宙が消滅することなどまったく関係ありません。

人類は、その時代その時代の文明を生きるわけです。またさらに次の世代にそれを発展させる努力もします。これは、いわば生命の本能です。やがて消滅することを前提に生きることはありません。
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2009年11月16日 (月)

【読者の方からのメール】

このブログの読者の方より、以下のメールをいただきました。

▼読者の方からのメール
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はじめまして。
私は、私立高校の一年生です。
大槻教授のブログ、書籍など、たびたび拝見しています。
オカルトに対する姿勢、科学を重要視する考え方など、共感することが多く、尊敬しております。

さて、13日に行われた、行政刷新会議の事業仕分けで、科学技術関係の事業の予算が、大幅にカットされたことを知りました。
スパコン、ips細胞、また、研究者の育成のための特別研究員事業などの予算が、「必要ない」と判断されたというのです。

このニュースを知ったとき、非常に驚きました。
日本は、科学技術国である。というのは、誰でも知っていることではないでしょうか?

資源に乏しい日本が、技術の発展を捨てたら、衰退することは必至だと思います。
なぜ、この事業が無駄なのでしょうか。未来の日本のために、絶対に必要な事業だと思います。

大槻教授は、どのようにお考えでしょうか?
もしよろしければ、ご意見をお願いします。
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▼大槻からの回答
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メールありがとう。
私は今回の科学関連予算の仕分けの結果は、やむを得ないと思っています。
日本で世界一の装置を開発する必然性はないのです。例えば、ヨーロッパはEU全体で予算を出し合い、世界有数の装置を開発しています。核融合や加速器がそれです。

日本一国で国粋的な発想で莫大なお金をかけ、世界一の装置を開発するのは『科学技術立国』を目指すためというわけですが、それは高度成長、新資本主義的な発想でしょう。
子供の教育、社会福祉、医療、環境など、世界一どころか世界何十位のありさま。それが科学装置だけが世界一は有り得ないでしょう。

大事なことは二つ。
巨大な装置を使わなくとも独創的な研究はできます。また、装置開発は国際協力でやることです。
なお、このような私の考えは近く、物理の雑誌『パリティ』(丸善)に載りますので、ご覧ください。
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2009年11月 9日 (月)

【宗教の評価】

このブログの読者の方から、以下のメールをいただきました。

▼読者の方からのメール
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大槻先生、はじめまして。

私は学部を物理学科で卒業し、現在は大学院で環境科学を学んでいる者です。

先生は宗教を否定しているようですが、それはなぜでしょうか。
確かに、日本人は、宗教を忌避すべきものと思っているひとが多いかと思います。
しかし、世界的に見ると、宗教は社会生活の多くの場面で、人々に浸透しているものです。
学部時代に宗教社会学の講義で、「宗教とはオペレーティングシステムのようなものだ」、と著名な社会学の先生から聞かされました。
宗教には、人間が、いかにして生を全うするか、社会との関わりのなかでどう振る舞っていくか、を考えていくための基礎的な枠組みが、先人の叡智によって示されていると思います。
そして、人類の素晴らしい遺産である芸術も生みました。
先生の信奉する自然科学も、その発生には、キリスト教社会がその背景にあります。

私は、霊魂などのオカルトは信じませんが、伝統的な各宗教の考え方については尊重しております。

先生はこの点、いかがお考えでしょうか。
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▼大槻からの回答
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わざわざメールいただき、ありがとうございました。
宗教、とくにキリスト教についてのまじめで真っ当なご意見と思いました。私も宗教の存在をまったく否定しているわけではありません。ある種の人々の不安感やストレスの解消に役に立つこともあるかもしれませんし、社会規範や生活の指針にもなっていることもあるでしょう。
しかし私は、宗教など無くてすめば、それに越したことはないと思っております。

人類の過去に宗教は大きな役割を果たしたのでしょうか?
あなたは、「宗教は芸術を育み、科学すら、その基礎を作った」と述べていますが、それは違うでしょう。
真実は、「多くの芸術が生み出されるとき、そこにたまたま宗教があった」ということです。
多くのキリスト教に関連した絵画は素晴らしいものですが、しかしそれらは、たまたま教会に関連して画家が仕事をしただけのことでしょう。
仏教でも同じこと。単に仏像を対象として取り上げただけです。

ですから、もし宗教が存在しなくても芸術家は人間の喜びや苦悩をもとに素晴らしい絵画や彫刻を生み出しているはずです。自然の美しさを賛美する絵画もたくさん生み出されているはずです。
今、世に素晴らしい芸術が残されているからといって、それが宗教の価値の証明とはならないと思います。

まして宗教が科学の基礎をつくったとか、科学すら生み出したなどというのは間違っています。
2000年以上も前、ギリシャの哲学者デモクリトスが原子論を唱えたとき、いかに宗教的世界観を否定したかを見れば明らかです。
あらゆる物理法則のうち、一つでもキリスト教的世界観から生み出されたものがあるでしょうか。
まったくありません。ないどころか常にキリスト教的神学は物理法則と対立し、物理学の進歩を阻害してきました。

それはそれとして、宗教は社会の健全な進歩のシステムを維持するのに大きな役割を演じてきたという主張もあります。
そうでしょうか?例えば戦争です。
宗教は平和の使者だという主張とは裏腹に、その宗派に反するものを『皆殺しにせよ』と聖書は教えていますね。
近くはアフガニスタン、イラク戦争でもこの宗教的殺戮でした。一体、イラク戦争で殺された40万人の市民は、『社会の健全なシステム』の犠牲者なのでしょうか。

思い出すのも辛いのは、サイパンの博物館にある映画です。
広島原爆投下に向かうパイロットに『原爆投下の成功』を祈って手を振る二人の牧師の姿です。
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